わたろうさんとうし
和太郎さんと牛

冒頭文

一 牛ひきの和太郎さんは、たいへんよい牛をもっていると、みんながいっていました。だが、それはよぼよぼの年とった牛で、おしりの肉がこけて落ちて、あばら骨も数えられるほどでした。そして、から車をひいてさえ、じきに舌を出して、苦しそうにいきをするのでした。 「こんな牛の、どこがいいものか、和太はばかだ。こんなにならないまえに、売ってしまって、もっと若い、元気のいいのを買えばよかったんだ」

文字遣い

新字新仮名

初出

「花のき村と盗人たち」少国民文芸選、帝国教育会出版部、1943(昭和18)年9月30日

底本

  • 牛をつないだ椿の木
  • 角川文庫、角川書店
  • 1968(昭和43)年2月20日