かれはだれをころしたか |
彼は誰を殺したか |
冒頭文
一 男でもほれぼれする吉田豊のやすらかな寝顔を眺めながら中条直一は思った。 「こんな美しい青年に妻が恋するのは無理はないことかも知れない。どう考えても俺は少し年をとりすぎている。ただ妻の従弟だと思ッて近頃まで安心していたのは俺の誤りだッた。明日はどうしてもあれを決行しよう」 中条はこんなことを思い耽りつつ、海辺の宿屋の小さい一室で、真夏の暑苦しい夜を一睡もせず明かしてしまった。
文字遣い
新字新仮名
初出
「文藝春秋」1930(昭和5)年7月号
底本
- 日本探偵小説全集5 浜尾四郎集
- 創元推理文庫、東京創元社
- 1985(昭和60)年3月29日