へいまとうぐいす |
平馬と鶯 |
冒頭文
鶯の宿 麗かな春の日である。 野に山に陽の光が、煙のように漂うのを見るともなしに見ながら、平馬は物思いに沈んで歩いていた。振り返ると、野路の末、雑木林の向うの空に、大小の屋根が夢の町のように浮んで、霞に棚引(たなび)いているのが見える。平馬の藩である。行手にもまたほかの町が見えていたが、平馬はべつにそこへ行くためにこの春の野の一本道を辿(たど)っているわけではなかった。
文字遣い
新字新仮名
初出
「少年倶楽部」1927(昭和2年)2月
底本
- 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
- 河出書房新社
- 1970(昭和45)年1月15日