いのうはりまのかみ
稲生播磨守

冒頭文

天保のすえ、小石川御箪笥町(こいしかわおたんすまち)の稲生播磨守(いのうはりまのかみ)の上屋敷。 諸士の出入りする通用門につづく築地塀(ついじべい)の陰。夕方。杉、八(や)つ手(で)などの植込みの根方に、中小姓税所郁之進(さいしょいくのしん)と、同じく中小姓池田、森の三人が、しゃがんで話しこんでいる。 池田は昂奮し、税所郁之進は蒼白(まっさお)な顔で、腕を組み、うなだれている。

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号

底本

  • 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年1月15日