やすきちのてちょうから
保吉の手帳から

冒頭文

わん ある冬の日の暮、保吉(やすきち)は薄汚(うすぎたな)いレストランの二階に脂臭(あぶらくさ)い焼パンを齧(かじ)っていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂(ひび)の入った白壁(しらかべ)だった。そこにはまた斜(はす)かいに、「ホット(あたたかい)サンドウィッチもあります」と書いた、細長い紙が貼(は)りつけてあった。(これを彼の同僚の一人は「ほっと暖いサンドウィッチ」と読み、真面目(まじめ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1923(大正12)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日