さっかのぞう
作家の像

冒頭文

なんの随筆の十枚くらい書けないわけは無いのであるが、この作家は、もう、きょうで三日も沈吟(ちんぎん)をつづけ、書いてはしばらくして破り、また書いては暫(しばら)くして破り、日本は今、紙類に不足している時ではあるし、こんなに破っては、もったいないと自分でも、はらはらしながらそれでも、つい破ってしまう。 言えないのだ。言いたいことが言えないのだ。言っていい事と言ってはならぬ事との区別が、この

文字遣い

新字新仮名

初出

「都新聞」1940(昭和15)年3月25日~27日

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年6月27日