わかみずのはなし |
若水の話 |
冒頭文
一 ほうっとする程長い白浜の先は、また目も届かぬ海が揺れてゐる。其波の青色の末が、自(オノ)づと伸(ノ)し上る様になつて、頭の上まで拡がつて来てゐる空だ。其が又、ふり顧(カヘ)ると、地平をくぎる山の外線の、立ち塞つてゐる処まで続いてゐる。四顧俯仰して目に入るものは、此だけである。日が照る程風の吹くほど、寂しい天地であつた。さうした無聊な目を睜(ミハ)らせる物は、忘れた時分にひよつくりと、波と
文字遣い
新字旧仮名
初出
「古代研究 第一部 民俗学篇第一」1929(昭和4)年4月10日
底本
- 折口信夫全集 2
- 中央公論社
- 1995(平成7)年3月10日