ゆめ

冒頭文

わたしはすっかり疲れていた。肩や頸(くび)の凝(こ)るのは勿論、不眠症もかなり甚しかった。のみならず偶々(たまたま)眠ったと思うと、いろいろの夢を見勝ちだった。いつか誰かは「色彩のある夢は不健全な証拠だ」と話していた。が、わたしの見る夢は画家と云う職業も手伝うのか、大抵(たいてい)色彩のないことはなかった。わたしはある友だちと一しょにある場末(ばすえ)のカッフェらしい硝子戸(ガラスど)の中(なか)

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1926(大正15)年11月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日