いしかりがわ |
石狩川 |
冒頭文
第一章 一 もはや日暮れであった。濶葉樹(かつようじゅ)のすき間にちらついていた空は藍青(らんせい)に変り、重なった葉裏にも黒いかげが漂っていた。進んで行く渓谷にはいち早く宵闇がおとずれている。足もとの水は蹴立(けた)てられて白く泡立った。が、たちまち暗い流れとなって背後に遠ざかった。深い山気の静寂がひえびえと身肌に迫った。 ずいぶんと歩いたのである。道もない険岨(け
文字遣い
新字新仮名
初出
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
底本
- 石狩川 下
- 新日本文庫、新日本出版社
- 1978(昭和53)年9月30日