ひかりのないあさ |
光のない朝 |
冒頭文
おもんが、監督の黒い制服を着、脊柱が見えそうに痩せさらぼいた肩をかがめて入って来ると、どんな野蛮な悪戯(いたずら)好きの女工も、我知らずお喋りの声を止めてひっそりとなった。 年齢の見当がつかないほど萎(な)え凋んだ蒼白い銀杏形の顔、妙に黒く澄んだ二つの眼、笑っても怒っても、先ず大きな前歯の上で弱々しく震える色褪せた唇。彼女が歩くと細い棒をついだような手脚の関節はカタカタ鳴るのではないかと
文字遣い
新字新仮名
初出
「サンデー毎日」1923(大正12)年3月20日号
底本
- 宮本百合子全集 第二巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年6月20日