かお

冒頭文

ルイザは、天気にも、教父にも、または夫のハンスに対しても、ちっとも苦情を云うべきことのないのは知っていた。 自分達位の身分の者で、村の誰があんな行届いた洗礼式を、息子に受けさせてやったろう。四月の第二日曜のその朝、天気は申し分のない麗らかさであった。暖い溶けるような日の色といい、爽やかな浮立つような微風といい。彼女は、ハンスと婚礼した時からの思い通り、由緒ある伊太利亜(イタリア)レースの

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1924(大正13)年1月号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日