ふるきミニエチュア
古き小画

冒頭文

一 スーラーブは、身に迫るような四辺(あたり)の沈黙に堪えられなくなって来た。 彼は、純白の纏布(ターバン)を巻いた額をあげ、苦しそうにぎらつく眼で、母を見た。 彼女は、向い側で、大きな坐褥の上に坐っている。その深い感動に圧せられたようにうなだれている姿も、遠くから差し込む日光を斜に照り返している背後の灰色の壁もすべてが、異様な緊張の前に息をつめ、見えない眼をみはっている

文字遣い

新字新仮名

初出

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日