こおりぐらのにかい
氷蔵の二階

冒頭文

一 表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆塵埃(ほこり)を立てた。まして、今は春だし、練兵場の方角から毎日風が吹くから、空気の中の埃といったらない。それが、硝子につく。硝子は、外側から一面薄茶色の粉を吹きつけたように曇っていた。何年前に、この大露台の硝子は拭かれたぎりなのだろう。 床は、トタン

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性」1926(大正15)年7月号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日