一 二階受持のさをが、障子の陰から半分顔を出し、小さい声で囁いた。 「一寸、百代さん、来て御覧なさい」 机に向って宿題をしていた百代は、子供らしく下からさをを見上げた。 「なあに」 さをは、障子紙に銀杏返しの鬢を擦る程首を廻して玄関の方へ気を配りながら繰返した。 「——まあ来て御覧なさい」 「どうしたの、何(なん)か来たの?」 さをは電話室の傍迄百代をつ