へや
部屋

冒頭文

一 二階受持のさをが、障子の陰から半分顔を出し、小さい声で囁いた。 「一寸、百代さん、来て御覧なさい」 机に向って宿題をしていた百代は、子供らしく下からさをを見上げた。 「なあに」 さをは、障子紙に銀杏返しの鬢を擦る程首を廻して玄関の方へ気を配りながら繰返した。 「——まあ来て御覧なさい」 「どうしたの、何(なん)か来たの?」 さをは電話室の傍迄百代をつ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1926(大正15)年7月号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日