ぬいこ
縫子

冒頭文

一 二階の掃除をすませ、緩(ゆっ)くり前かけなどをとって六畳に出て見ると、お針子はもう大抵皆来ていた。口々に、ぞんざいに師匠の娘である縫子に挨拶した。縫子は襖をしめながらちょっと上体をかがめ総体に向って、 「お早う」 と答えた。彼女は自分の場所と定っている地袋の前に坐った。針箱や縫いかけを入れた風呂敷づつみなど、お針子の誰かによってちゃんと座布団の前に揃えられていた。然し、直ぐに包み

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1926(大正15)年11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日