ぼたん
牡丹

冒頭文

人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。 石川は元来若い時分は乱暴な生活をした男であった。南洋の無人島で密猟をしていたこともある。××町に住むようになって、いろいろな暮しを見ききする間に、偶然なことから或る家族、といっても極く特別な事情の一家と知り合った。 ××町というのは、東京の西北端から、更に一里半ばかり田舎に引込んだ住宅地の一つであった。××町の

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1927(昭和2)年1月号

底本

  • 宮本百合子全集 第三巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年3月20日