しろいかや |
白い蚊帳 |
冒頭文
なほ子は、従弟の部屋の手摺(てすり)から、熱心に下の往来の大神楽を見物していた。その大神楽は、朝早くから温泉町を流しているのだが、坂の左右に並んだ温泉町は小さいから、三味線、鉦(かね)などの音が町の入口から聞えた。 今、彼等は坂のつき当りの土産屋の前で芸当をやっていた。土産屋の前は自動車を廻せる程度の広場なので足場がいいのだろう。大神楽は、永い間芸をした。朝から殆ど軒並に流して来ていたの
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1927(昭和2)年8月号
底本
- 宮本百合子全集 第三巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年3月20日