こくこく
刻々

冒頭文

一 朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆっくり鉄格子のこま一つ一つを拭いたりして動いている。 夜前、神明町辺の博士の家とかに強盗が入ったのがつかまった。看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場じゅうが聞い

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

底本

  • 宮本百合子全集 第四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年9月20日