かがみもち
鏡餅

冒頭文

正面のドアを押して入ると、すぐのところで三和土(たたき)の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうではなく、そういう風体(ふうてい)でそのへんにハタキをかけたり、椅子を動かしたり動きまわっているのは、制服の上衣をぬいだ巡査であった。 大きい包みを下げて二階へ上って見ると、ここもまたコンクリートの床は

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1934(昭和9)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年9月20日