どん・こん・ろく
鈍・根・録

冒頭文

六月十三日に、ぬがされていた足袋をはき、それから帯をしめ、風呂敷の包みを下げて舗道へ出たら、駒下駄の二つの歯がアスファルトにあたる感じが、一足一足と、異様にはっきり氷嚢(ひょうのう)の下の心臓にこたえた。その時着ていた着物とは全くかかわりなくすっかり夏になりきっている往来のカンカンした日光の強さと、足の裏から体に伝わったその下駄の歯の感覚を、僅かに七八歩あるいただけだがわたしは恐らく一生涯忘れ得な

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1934(昭和9)年8月号

底本

  • 宮本百合子全集 第四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年9月20日