とってい
突堤

冒頭文

炎天の下で青桐の葉が黝(くろず)んで見えるほど暑気のきびしい或る夏の単調な午後、格子の内と外の板廊下にいる者とが見えないところでこんな話をしている。 「どうしたんだか、まだ写真を送ってよこさないんだがね」 「江の島で撮ったんですか」 「ああ、子供ら五人ズラッとハア並べちゃってね。わしと女房と撮ったが——どうしたもんだか……」 「いくらでした?」 「三枚で一円さ」 「——普通は二週間

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1935(昭和10)年10月「中央公論」五十周年記念特大号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日