ねこぐるま |
猫車 |
冒頭文
紺唐草の木綿布団をかけた炬燵(こたつ)のなかへ、裾の方三分の一ばかりをさし入れて敷いた床の上に中気の庄平が眠っていた。店の方からその中の間へあがった坂口の爺さんは、別に誰へ声をかけるでもなく、ずっと炬燵のうしろをまわって、病人の枕元へ行った。枕元は二枚の障子で、隅に昔風な塗り箪笥がある。下の方の引出しはおさやの襦袢や小ものなどが入っているが、上の方の引出しには病人の見舞にと町の親戚からくれた森永ビ
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1937(昭和12)年6月号
底本
- 宮本百合子全集 第五巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年12月20日