ふたりいるとき
二人いるとき

冒頭文

習慣になっているというだけの丁寧なものごしで、取次いだ若い女は、 「おそれいりますが少々おまち下さいませ」と引下って行った。 土庇が出ている茶がかった客間なので、庭の梧桐(あおぎり)の太い根元にその根をからめて咲き出ている山茶花(さざんか)の花や葉のあたりを暖かく照らしている陽は、座敷の奥まで入って来ない。多喜子は、座布団の上で洋装の膝をやや崩して坐りながら、細い結婚指輪だけはまってい

文字遣い

新字新仮名

初出

「新女苑」1938(昭和13)年1月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日