ひろば |
広場 |
冒頭文
一 大階段を降り切った右手のちょっと凹(くぼ)んだようなところで預けてあった書附をかえして貰うと、更に六つ七つの段々からウラル大理石を張った広間へぬけ、大きい重いガラス扉を体で押して外へ出た。 暖い冬の匂いのするトゥウェルフスカヤ通りの雑踏が、朝子の目立たないその姿を忽ち活気の溢れた早い自身の流れの裡へ巻きこんだ。日光はあたたかく真上から市街を照らし、建物の錆びた赤や黄色の外壁をぬ
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸」1940(昭和15)年1月号
底本
- 宮本百合子全集 第五巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年12月20日