さんがつのだいよんにちよう
三月の第四日曜

冒頭文

一 コト。コト。遠慮がちな物音だのに、それがいやに自分にも耳立って聞えるような明け方の電燈の下で羽織の紐を結んでしまうと、サイは立鏡を片よせて、中腰のままそのつもりでゆうべ買って来ておいたジャムパンの袋をあけた。 寝が足りないのと何とはなし気がせき立っているのとで、乾いたパンは口のなかの水気を吸いとるばかりでなかなか喉を通りにくい。一つをやっと食べたきりで袋を握って隅っこへ押しつけ

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本評論」1940(昭和15)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日