むかしのかじ
昔の火事

冒頭文

こちとらは、タオルがスフになったばっかりでもうだつがあがらないが、この頃儲けている奴は、まったく思いもかけないようなところで儲けてるんだねえ。理髪屋の親方の碌三がそう云い出した。中学校や女学校の試験が新考査法になって、いっとう儲けたのは誰だと思うね。頭をいじられている猛之介は、白い布をぐるりとかぶせられて目をつぶりながら、曖昧にゆるい入れ歯をかみ直して、ふうむと云った。いっとう儲けたなア歯医者だそ

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1940(昭和15)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日