よるのわかば |
夜の若葉 |
冒頭文
一 桃子の座席から二列ばかり先が、ちょうどその二階座席へ通じる入り口の階段になっていた。もう開演時間の迫っている今は、後から後から込んでいかにも音楽会らしい色彩の溢れたおとなしい活気の漲った混雑がそのあたりに渦巻いている。プログラムと書類入れの鞄とを膝の上に重ね、そこへ両腕をたがい違いにのせた寛いだ姿態で、桃子は目の下の賑やかな光景を、それもこれから聴こうとする音楽の添えものとしてたのしむ眼
文字遣い
新字新仮名
初出
「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号
底本
- 宮本百合子全集 第五巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年12月20日