ふうちそう
風知草

冒頭文

一 大きな実験用テーブルの上には、大小無数の試験管、ガラス棒のつっこまれたままのビーカア。フラスコ。大さの順に並んだふたつきのガラス容器などがのせられている。何という名か、そして何に使われるものかわからないガラスのくねった長いパイプが上の棚から下っている。透明なかげを投げあっているガラスどもの上に、十月下旬の午後の光線がさしていた。武蔵野の雑木林のなかに建てられている研究所は自然の深い静寂に

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第六巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年1月20日