のぶこ
伸子

冒頭文

一 一 伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。 部屋の中央に長方形の大テーブルがあった。シャンデリヤの明りが、そのテーブルの上に散らかっている書類——タイプライタアの紫インクがぼやけた乱暴な厚い綴込(とじこみ)、隅を止めたピンがキラキラ光る何かの覚え書——の雑然とした堆積と、それらを挾んで相対し熱心に読み合せをしている二人

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

底本

  • 宮本百合子全集 第三巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年3月20日