あるおんな 2(こうへん) |
或る女 2(後編) |
冒頭文
二二 どこかから菊の香がかすかに通(かよ)って来たように思って葉子(ようこ)は快い眠りから目をさました。自分のそばには、倉地(くらち)が頭からすっぽりとふとんをかぶって、いびきも立てずに熟睡していた。料理屋を兼ねた旅館のに似合わしい華手(はで)な縮緬(ちりめん)の夜具の上にはもうだいぶ高くなったらしい秋の日の光が障子(しょうじ)越しにさしていた。葉子は往復一か月の余を船に乗り続けていたの
文字遣い
新字新仮名
初出
「有島武郎著作集 第九巻」叢文閣、1919(大正8)年6月
底本
- 或る女 後編
- 岩波文庫、岩波書店
- 1950(昭和25)年9月5日、1968(昭和43)年8月16日第23刷改版