おせいの坐っている左手に、三尺程の高窓が、広く往来に向いて開いていた。そこから、折々、まるで川風のようにしめりを含んだ涼しい風が、流れて来る。 「まあ、いい風」 彼女は、首をめぐらして、軒端に近く、房々と葉を垂れている大きな柳を眺めながら、いずまいをなおして、ぱたぱた団扇(うちわ)を動した。 狭い六畳の座敷には、暑苦しい電燈の光がいっぱいに漲(みなぎ)っている。火のない長火鉢