一 水口の硝子戸が、がらりと開いた。 ぼんやりとして台の前に立ち、燈(あかり)を浴びて煮物をかきまわしていたおくめは、驚いて振向いた。細めに隙(あ)いたところから、白い女の顔らしいものが見える。彼女がその方を見たと判ると、外の顔は前髪を一寸傾け、 「今晩は」 と云いながら、残りの戸を全部明けて姿を現した。 「まあ、何だろう、のぶちゃんかえ」 緊張し、訝しげな色を湛え