ねぎさまみやた
禰宜様宮田

冒頭文

一 春になってから沼の水はグッとふえた。 この間までは皆むき出しになって、うすら寒い風に吹き曝(さら)されていた岸の浅瀬も、今はもうやや濁ってはいるがしとやかな水色にすっかり被われて明るい日光がチラチラと、軽く水面に躍っている。 波ともいわれない水の襞(ひだ)が、あちらの岸からこちらの岸へと寄せて来る毎に、まだ生え換らない葦が控え目がちにサヤサヤ……サヤサヤ……と戦(

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1917(大正6)年7月号

底本

  • 宮本百合子全集 第一巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年4月20日