さぶろうじい
三郎爺

冒頭文

一 今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。 江戸や上方の者からは、世界のはてか、毛むくじゃらな荒夷(あらえびす)の住家ぐらいに思われていた奥州の、草茫々(ぼうぼう)とした野原の片端れや、笹熊の横行する山際に、わずかの田畑を耕して暮していた百姓達は、また実際狐や狸などと、今の我々には解らない関係を持って生活していたものらしい。 冬枯れの霜におの

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号

底本

  • 宮本百合子全集 第一巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年4月20日