ひとつのできごと |
一つの出来事 |
冒頭文
一 二階の夫婦が、貸間ありという札を出した。これは決して珍らしいことではない。この湖畔の小村では、夏になると附近の都会から多勢の避暑客が家族連れで来るので、大抵の家は二間三間宛よぶんな部屋を拵えて、夏場に金を儲ける工夫をしている。六月も中頃になって、ニューヨークの激しい炎熱が、黒いアスファルトを油臭く気味悪く溶かし始めると、この村の古い街路樹に包まれた家には一斉に“Furnished rooms
文字遣い
新字新仮名
初出
「大観」1919(大正8)年11月号
底本
- 宮本百合子全集 第一巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年4月20日