ふくしゅう |
復讐 |
冒頭文
一 バルタザル・アルドラミンは生きてゐた間、己(おれ)が大ぶ精(くは)しく知つてゐたから、己が今あの男に成り代つて身上話をして、諸君に聞かせることが出来る。もうあれが口は開く時は無い。笑ふためにも歌ふためにも、ジエンツアノの葡萄酒を飲むためにも、ピエンツアの無花果(いちぢく)を食ふためにも、その外の事をするためにも、永遠に開く時は無い。なぜと云ふに、あれはサン・ステフアノの寺の石畳みの下に眠
文字遣い
新字旧仮名
初出
「三田文学」四ノ一-四、1913(大正2)年1~4月
底本
- 鴎外選集 第十四巻
- 岩波書店
- 1979(昭和54)年12月19日