さる |
猿 |
冒頭文
猿と云ふものは元から溜まらない程己に気に入つてゐる。第一人間に比べて見ると附合つて見て面白い処がある。それから顔の表情も人間よりははつきりしてゐて、手で優しく搦み付くところなぞは、人間が握手をするよりも正直に心持を見せてゐるのだ。それから猿の一番好い性質は、生利(なまぎ)きにも猿を滑稽なものに言ひ做(な)してゐる人間よりも、遙に残酷でないことである。猿は昔から人間の真似をしてゐるが、まだ人間の乱暴
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新日本」三ノ三、1913(大正2)年3月1日
底本
- 鴎外選集 第十四巻
- 岩波書店
- 1979(昭和54)年12月19日