せいニコラウスのよ |
聖ニコラウスの夜 |
冒頭文
テルモンド市の傍(かたはら)を流れるエスコオ河に、幾つも繋いである舟の中に、ヘンドリツク・シツペの持舟で、グルデンフイツシユと云ふのがある。舳に金色(きんしよく)に光つてゐる魚(うを)の標識(しるし)が附いてゐるからの名である。シツペの持舟にこれ程の舟が無いばかりでは無い、テルモンド市のあらゆる舟の中でも、これ程立派で丈夫な舟は無い。この大きい、茶色の腹に、穀物や材木や藁や食料を一ぱい積んで、漆塗
文字遣い
新字旧仮名
初出
「三田文学」一一-一二、1913(大正2)年11月~12月
底本
- 鴎外選集 第十四巻
- 岩波書店
- 1979(昭和55)年12月19日