わに |
鱷 |
冒頭文
一 己の友達で、同僚で、遠い親類にさへなつてゐる、学者のイワン・マトヱエヰツチユと云ふ男がゐる。その男の細君エレナ・イワノフナが一月十三日午後〇時三十分に突然かう云ふ事を言ひ出した。それは此間から新道(しんみち)で見料を取つて見せてゐる大きい鰐(わに)を見に行きたいと云ふのである。夫は外国旅行をする筈で、もう汽車の切符を買つて隠しに入れてゐる。旅行は保養の為めと云ふよりは、寧ろ見聞を広めよう
文字遣い
新字旧仮名
初出
1912(明治45)年5月-6月「新日本」二ノ五-六
底本
- 鴎外選集 第15巻
- 岩波書店
- 1980(昭和55)年1月22日