うずしお
うづしほ

冒頭文

二人で丁度一番高い岩山の巓(いたゞき)まで登つた。老人は数分間は余り草臥(くたび)れて物を云ふことが出来なかつた。 とう〳〵かう云ひ出した。 「まだ余り古い事ではございません。わたくしは不断倅共の中の一番若い奴を連れて、この道を通つて、平気でこの岩端(いははた)まで出たものです。だからあなたの御案内をしてまゐつたつて、こんなに草臥れる筈ではないのです。それが大約(おほよそ)三年前に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝倶楽部 一六ノ一一」1910(明治43)年8月1日

底本

  • 鴎外選集 第15巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日