びょういんよこちょうのさつじんはん
病院横町の殺人犯

冒頭文

千八百〇十〇年の春から夏に掛けてパリイに滞留してゐた時、己はオオギユスト・ドユパンと云ふ人と知合になつた。まだ年の若いこの男は良家の子である。その家柄は貴族と云つても好い程である。然るに度々不運な目に逢つて、ひどく貧乏になつた。その為めに意志が全く挫けてしまつて、自分で努力して生計の恢復を謀らうともしなくなつた。幸に債権者共が好意で父の遺産の一部を残して置いてくれたので、この男はその利足でけちな暮

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説 一八ノ六」1913(大正2)年6月1日

底本

  • 鴎外選集 第15巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日