まいひめ |
舞姫 |
冒頭文
石炭をば早(は)や積み果てつ。中等室の卓(つくゑ)のほとりはいと静にて、熾熱燈(しねつとう)の光の晴れがましきも徒(いたづら)なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌(カルタ)仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余一人(ひとり)のみなれば。 五年前(いつとせまへ)の事なりしが、平生(ひごろ)の望足りて、洋行の官命を蒙(かうむ)り、このセイゴンの港まで来(こ)し頃は、目に見るもの、耳に聞くも
文字遣い
新字旧仮名
初出
「國民之友」1890(明治23)年1月
底本
- 現代日本文學大系 7
- 筑摩書房
- 1969(昭和44)年8月25日