よきょう |
余興 |
冒頭文
同郷人の懇親会があると云うので、久し振りに柳橋の亀清(かめせい)に往った。 暑い日の夕方である。門から玄関までの間に敷き詰めた御影石(みかげいし)の上には、一面の打水がしてあって、門の内外には人力車がもうきっしり置き列(なら)べてある。車夫は白い肌衣(はだぎ)一枚のもあれば、上半身全く裸裎(らてい)にしているのもある。手拭(てぬぐい)で体を拭(ふ)いて絞っているのを見れば、汗はざっと音を
文字遣い
新字新仮名
初出
「アルス」1915(大正4)年8月
底本
- 阿部一族・舞姫
- 新潮文庫、新潮社
- 1968(昭和43)年4月20日