おぼれかけたきょうだい
溺れかけた兄妹

冒頭文

土用波(どようなみ)という高い波が風もないのに海岸に打寄(うちよ)せる頃(ころ)になると、海水浴に来(き)ている都(みやこ)の人たちも段々別荘をしめて帰ってゆくようになります。今までは海岸の砂の上にも水の中にも、朝から晩まで、沢山の人が集って来て、砂山からでも見ていると、あんなに大勢な人間が一たい何所(どこ)から出て来たのだろうと不思議に思えるほどですが、九月にはいってから三日目になるその日には、

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1921(大正10)年7月

底本

  • 一房の葡萄 他四篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年12月16日改版第1刷