あたまならびにはら |
頭ならびに腹 |
冒頭文
真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。 とにかく、かう云ふ現象の中で、その詰み込まれた列車の乗客中に一人の横着さうな子僧が混つてゐた。彼はいかにも一人前の顔をして一席を占めると、手拭で鉢巻をし始めた。それから、窓枠を両手で叩きながら大声で唄ひ出した。 「うちの嬶ア 福ぢやア ヨイヨイ、 福は福ぢや
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文藝時代 第1巻第1号」1924(大正13)年10月1日発行
底本
- 定本横光利一全集 第一巻
- 河出書房新社
- 1981(昭和56)年6月30日