不圖(ふと)昔の夢が胸に浮んで來た。 私は或る山へ登らうとしてゐた。禿山(はげやま)で、頂(いただき)には樹木も無い。草花が所々懸崕(けんがい)の端に咲いてゐる。私の傍には二人の小兒(こども)が居た。一人は男の兒で六歳ばかり、一人は女の兒で四歳ばかり、男の兒は先きに立つて登つて行く、女の兒は私の手に縋つて歩いてゐる、不圖懸崕の頂の草花が目に入つた。 「あれ取つて頂戴な」女の兒は私に