さるめんかんじゃ |
猿面冠者 |
冒頭文
どんな小説を讀ませても、はじめの二三行をはしり讀みしたばかりで、もうその小説の樂屋裏を見拔いてしまつたかのやうに、鼻で笑つて卷を閉ぢる傲岸不遜の男がゐた。ここに露西亞の詩人の言葉がある。「そもさん何者。されば、わづかにまねごと師。氣にするがものもない幽靈か。ハロルドのマント羽織つた莫斯科ツ子。他人の癖の飜案か。はやり言葉の辭書なのか。いやさて、もぢり言葉の詩とでもいつたところぢやないかよ。」いづれ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「鷭 第二輯」1934(昭和9)年7月
底本
- 太宰治全集2 小説1
- 筑摩書房
- 1998(平成10)年5月25日