さるめんかんじゃ
猿面冠者

冒頭文

どんな小説を読ませても、はじめの二三行をはしり読みしたばかりで、もうその小説の楽屋裏を見抜いてしまったかのように、鼻で笑って巻を閉じる傲岸不遜(ごうがんふそん)の男がいた。ここに露西亜(ロシヤ)の詩人の言葉がある。「そもさん何者。されば、わずかにまねごと師。気にするがものもない幽霊か。ハロルドのマント羽織った莫斯科(モスクワ)ッ子。他人の癖の飜案か。はやり言葉の辞書なのか。いやさて、もじり言葉の詩

文字遣い

新字新仮名

初出

「鷭 第二輯」1934(昭和9)年7月

底本

  • 晩年
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1947(昭和22)年12月10日、1985(昭和60)年10月5日70刷改版