一 其頃はギリシヤ人にサラシンとよばれたバルタザアルがエチオピアを治めてゐた。バルタザアルは色こそ黒いが、目鼻立の整つた男であつた。其上又素直なたましひと大様な心とを持つた男であつた。 即位の第三年行年二十二の時に王は国を出て、シバの女王バルキス聘問(へいもん)の途に上つた。 追随するのは魔法師のセムボビチスと宦官(くわんぐわん)のメンケラとである。行列の中には七十五頭の