とかれたぞう
解かれた象

冒頭文

上野(うえの)の動物園の象が花屋敷(はなやしき)へ引っ越して行って、そこで既往何十年とかの間縛られていた足の鎖を解いてもらって、久しぶりでのそのそと檻(おり)の内を散歩している、という事である。話を聞くだけでもなんだかいい気持ちである。肩の凝りが解けたような気がする。 事実はよくわからないが、伝うるところによるとこの象は若い時分に一度かんしゃくを起こして乱暴をはたらいた事があるらしい。そ

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性改造」1924(大正13)年1月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第二巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年9月10日、1964(昭和39)年1月16日第22刷改版